「告示校で教えてきたけれど、自分は経過措置の対象者に入るのだろうか」。登録日本語教員の制度が始まってから、現職の日本語教師からこうした不安をよく耳にします。経過措置の対象者かどうかで、日本語教員試験が免除されるのか、基礎試験から受け直すのかが大きく変わります。しかも経過措置は原則2029年3月31日で終わるため、判定を後回しにするほど準備期間が削られていきます。
この記事では、文部科学省の公表資料をもとに、経過措置の対象者の条件を6つのルート別に整理しました。「現職者」に当たる勤務経験の数え方、講習の中身、出願時の注意点まで、判定に必要な情報を1ページにまとめています。制度全体を先に押さえたい人は登録日本語教員とは?取得ルート・経過措置・試験を解説もあわせて読んでみてください。
東京都内の告示校で非常勤講師を7年続けてきた佐藤美和さん(44歳)も、最初は自分のルートが分からず戸惑った一人です。2016年に日本語教育能力検定試験に合格し、その前には420時間の養成講座も修了していました。「講座修了組のD-2か、検定合格組のE-2か。両方に当てはまりそうで、どちらで出願すべきか半月ほど迷いました」と振り返ります。
※ここで紹介する佐藤さんの体験は、複数の現職日本語教師の声をもとに構成した架空のケースです。
登録日本語教員の経過措置とは?対象者を決める2つの軸

経過措置は、2024年4月に施行された日本語教育機関認定法による新制度へ、現職の日本語教師が無理なく移れるように設けられた特例です。本来、登録日本語教員になるには日本語教員試験(基礎試験・応用試験)に合格し、実践研修を修了しなければなりません。経過措置の対象者は、このうち試験の一部または全部と実践研修が免除されます。
対象者かどうかは「現職者に当たるか」と「どの資格・課程を持っているか」の2軸で決まります。この組み合わせでC・D-1・D-2・E-1・E-2・Fの6ルートに分かれ、ルートごとに免除範囲と必要な講習が異なります。期間は原則2024年4月1日から2029年3月31日までで、Cルートだけ2033年3月31日まで延長されています。
「現職者」に当たる勤務経験の条件
経過措置の対象者の大半は「現職者」であることが前提です。文部科学省の資料では、2019年4月1日から2029年3月31日までの間に、次のいずれかで日本語教員として1年以上勤務した人を現職者としています。
- 法務省告示機関で告示を受けた課程(いわゆる告示校)
- 大学
- 認定日本語教育機関で認定を受けた課程
- 文部科学大臣が指定した日本語教育機関
特に見落としやすいのが「2019年4月以降」という起点です。2010年代前半に告示校で10年教えていても、2019年4月以降の勤務が1年に満たなければ現職者には当たりません。地域の日本語教室やオンラインの個人レッスンは上記の機関に含まれないため、何年続けていても勤務年数には数えられない点にも注意してください。
勤務期間は2029年3月31日までに1年を満たせばよいため、これから告示校や認定機関で働き始める人も対象者になれる可能性があります。常勤・非常勤の扱いなど細かな判定は、文部科学省「登録日本語教員の登録申請の手引き」で最新の基準を確認しましょう。
経過措置6ルートの対象者と免除内容【早見表】
6つのルートを、対象者の条件・必要な講習・受ける試験で一覧にしました。自分の経歴に近い行を探してください。
| ルート | 対象者の条件 | 必要な講習 | 受ける試験 |
|---|---|---|---|
| C | 必須の50項目に対応した養成課程等を修了し、学士以上の学位を持つ人(現職者でなくても可) | 不要 | 応用試験のみ |
| D-1 | 5区分の教育内容に対応した養成課程等を修了し、学士以上の学位を持つ現職者 | 講習Ⅱ | 応用試験のみ |
| D-2 | 上記以外の告示基準に該当する養成課程等を修了し、学士以上の学位を持つ現職者 | 講習Ⅰ・講習Ⅱ | 応用試験のみ |
| E-1 | 1987年4月〜2003年3月に実施された日本語教育能力検定試験に合格した現職者 | 講習Ⅰ・講習Ⅱ | なし(出願は必要) |
| E-2 | 2003年4月〜2024年3月に実施された日本語教育能力検定試験に合格した現職者 | 講習Ⅱ | なし(出願は必要) |
| F | 上記のいずれにも当てはまらない現職者 | 不要 | 基礎試験・応用試験 |
表のとおり、実践研修は6ルートすべてで免除されます。差が出るのは試験の範囲で、E-1・E-2は基礎試験と応用試験がともに免除、C・D-1・D-2は応用試験のみ、Fは両方の受験が必要です。この区分は文部科学省「登録日本語教員の資格取得に係る経過措置について」に基づいています。
Cルート:現職者でなくても対象者になれる唯一のルート
Cルートは、経過措置の対象者のなかで唯一「現職者」の条件がありません。2019年3月、文化審議会国語分科会が「必須の50項目」をまとめました。これに対応した養成課程を修了し学士以上の学位を持っていれば、教壇に立った経験がなくても対象者になります。大学の日本語教員養成課程や、文部科学省の確認を受けた民間の養成講座の修了者が典型例です。
免除されるのは基礎試験と実践研修で、応用試験には合格する必要があります。期限が2033年3月31日までと長いのは、大学の登録機関化が遅れた場合に在学生が不利にならないよう、4年分の修業年限を上乗せしたためです。修了した課程が対象かどうかは、文部科学省が公開している確認済み課程の一覧で調べられます。
D-1・D-2ルート:養成課程を修了した現職者
D-1とD-2は、必須の50項目ができる前の養成課程を修了した現職者向けのルートです。2000年の調査研究協力者会議の報告に基づく「5区分の教育内容」の実施が確認された課程ならD-1、それ以外の告示基準を満たす課程ならD-2に分かれます。どちらも学士以上の学位が条件です。
D-1は講習Ⅱ、D-2は講習Ⅰと講習Ⅱの修了が必要で、講習後に応用試験を受けます。同じ420時間講座でも、受講した年度や実施機関によってD-1かD-2かが変わります。修了証の発行年と機関名を手元に用意してから一覧と照合するのが確実です。
E-1・E-2ルート:検定試験に合格した現職者
E-1とE-2は、公益財団法人日本国際教育支援協会の日本語教育能力検定試験に合格した現職者のルートです。1987年4月から2003年3月までに実施された試験の合格者がE-1、2003年4月から2024年3月までの合格者がE-2になります。講習を修了すれば基礎試験・応用試験・実践研修のすべてが免除され、6ルートのなかで最も負担が軽くなります。
ただし試験が免除されても、日本語教員試験への出願そのものは必要です。出願しないと合格証書が発行されず、登録申請に進めません。2024年度以降に実施された検定試験の合格者は、E-1・E-2の対象者には含まれない点も押さえておきましょう。
Fルート:資格や課程修了がない現職者
Fルートは、養成課程の修了や検定試験の合格がないまま告示校などで教えてきた現職者の受け皿です。講習は不要ですが、基礎試験と応用試験の両方に合格する必要があり、免除されるのは実践研修のみです。試験の難しさや合格率は登録日本語教員試験の難易度と合格率を徹底解説で詳しくまとめています。
自分がどのルートの対象者か判定する3ステップ

ルート名を眺めるだけでは判断しにくいため、次の順番で絞り込むと迷いません。
- 勤務歴を確認する:2019年4月以降、告示校・大学・認定機関などで1年以上教えたかを確かめる。該当しなければCルート以外は選べない
- 学位と養成課程を確認する:学士以上の学位があり養成課程を修了していれば、文部科学省の一覧でC・D-1・D-2のどれに当たるかを調べる
- 検定試験の合格年を確認する:日本語教育能力検定試験の合格証書で実施年度を見て、E-1かE-2かを判断する。どれにも当たらない現職者はFルートの対象者になる
複数のルートに当てはまる人もいます。たとえば養成講座を修了し、検定試験にも合格している現職者は、DとEの両方の対象者になり得ます。試験免除の範囲が広いEルートが有利になることが多いものの、最終的な扱いは手引きや問い合わせ窓口で確認してから出願してください。
佐藤さんがE-2ルートを選んだ理由
佐藤さんは420時間講座を修了した年度から、D-2に当たる可能性が高いと分かりました。一方、2016年の検定試験合格はE-2の条件を満たしています。D-2なら講習Ⅰ・Ⅱに加えて応用試験を受ける必要がありますが、E-2なら講習Ⅱだけで試験がすべて免除されます。文部科学省の問い合わせ窓口にも確認し、負担の小さいE-2で出願すると決めました。
「迷っていた半月がもったいなかった」と佐藤さんは話します。出願に備えて勤務先の告示校へ在職証明書を依頼したところ、発行までに2週間ほどかかりました。書類の取り寄せには意外と時間がかかるので、ルートの見当がついた段階で早めに依頼しておくと安心です。
経過措置の講習Ⅰ・講習Ⅱの内容と進め方
D-1・D-2・E-1・E-2ルートの対象者は、文部科学省が実施する経験者講習の修了が必須です。講習はすべてeラーニングで、動画視聴・コマごとの確認試験・講習修了認定試験の3段階で進みます。確認試験と修了認定試験はいずれも正答率70%以上で合格となり、不合格でも追加費用なしで何度でも受け直せます。
講習Ⅰ(90分×5コマ・計7.5時間)
講習Ⅰは合計7.5時間の動画で、日本語教育総論と日本語学習論の2分野を扱います。前者は言語政策・多文化共生・日本語の試験など、後者は習得過程・学習ストラテジー・異文化受容などが中心です。修了認定試験は全10問です。受講が必要な対象者はD-2とE-1の2ルートに限られます。
講習Ⅱ(90分×10コマ・計15時間)
講習Ⅱは合計15時間と、講習Ⅰの2倍のボリュームです。教育実習・授業分析、コースデザイン、評価法、日本語教育とICT、著作権、異文化間教育など、現場の授業づくりに直結するテーマが並びます。修了認定試験は全20問で、CとF以外の4ルートの対象者すべてが受講します。
佐藤さんは平日の夜に1コマずつ進め、講習Ⅱを約3週間で修了しました。「著作権のコマは、教材のコピー配布を見直すきっかけになった」そうです。修了状況は毎月20日に確認され、修了証は翌月上旬に電子データで届きます。講習の詳細は文部科学省「経験者講習 講習概要(令和8年度版)」で確認できます。
経過措置の対象者が見落としやすい3つの注意点
講習の修了証は出願時点で必要
D-1・D-2・E-1・E-2ルートで日本語教員試験に出願する場合、講習の修了証を出願書類と一緒に提出しなければなりません。経過措置の対象者でも、修了証がそろっていなければ免除は受けられません。修了証の発行は月1回の締めで、講習を終えてから手元に届くまで数週間かかります。試験日程から逆算して、出願締切の2〜3か月前には受講を始めておきましょう。日程は文部科学省の日本語教員試験のページに掲載されています。
2029年3月31日を過ぎると経過措置は使えない
C以外のルートは2029年3月31日で期限を迎えます。日本語教員試験は年1回の実施が基本のため、受験できるチャンスは残り数回しかありません。Fルートの対象者は基礎試験・応用試験の両方に合格する必要があり、1回で届かなかった場合の再挑戦も考えると、早めの受験計画が欠かせません。経過措置の対象者であっても、期限を過ぎれば通常ルートと同じ条件で登録日本語教員を目指すことになります。
認定機関で教え続けるには登録が前提になる
経過措置期間中は、登録日本語教員でなくても一定の現職者なら認定日本語教育機関で教えられます。しかしこの特例も2029年3月31日までです。期限後も認定機関で教え続けるには登録日本語教員であることが前提になるため、「今は教えられているから」と先延ばしにするのは禁物です。
よくある質問
Q. 日本語教師の経験がなくても経過措置の対象者になれますか?
Cルートであれば可能です。必須の50項目に対応した養成課程を修了し、学士以上の学位があれば、勤務経験は問われません。それ以外のルートは現職者であることが対象者の条件です。
Q. 学士の学位がなくても経過措置の対象者になれますか?
C・D-1・D-2ルートは学士以上の学位が条件のため対象外です。一方、E-1・E-2ルートとFルートには学位の条件がありません。検定試験に合格した現職者なら、学位がなくてもE-1・E-2の対象者として試験免除を受けられます。
Q. 経過措置の対象者か自分で判断できないときはどうすればいいですか?
文部科学省の「日本語教育機関認定法ポータル」の問い合わせフォームから相談できます。問い合わせの種別で「登録日本語教員について」を選び、勤務先・勤務期間・修了した課程・検定試験の合格年を具体的に書くと回答がスムーズです。
まとめ
登録日本語教員の経過措置の対象者は、2つの軸で6ルートに分かれます。1つは「2019年4月以降に告示校などで1年以上教えた現職者か」、もう1つは「養成課程の修了・検定試験の合格があるか」です。検定試験に合格した現職者はE-1・E-2で試験が全免除、養成課程修了者はC・D-1・D-2で応用試験のみ、資格のない現職者はFルートで両試験を受けます。
期限はCルートを除き2029年3月31日です。講習の修了証は出願時点で必要なため、ルートの判定、講習の受講、書類の準備を今のうちに進めておきましょう。経過措置に当てはまらない人は、登録日本語教員の資格取得方法や登録日本語教員 養成講座おすすめ3選から、自分に合った取り方を探してみてください。