一級建築士の受験資格と実務経験|2020年改正で何が変わった?

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「建築学科を出たけれど、実務経験が2年たまるまで一級建築士は受けられないのでは」。ハウスメーカーで施工管理を担当する木村翔太さん(当時25歳)は、そう思い込んで受験を1年見送った。あとで調べ直すと、2020年3月施行の建築士法改正によって、実務経験は「受験の条件」から「免許登録の条件」へと移っていた。

※ここで紹介する木村翔太さんの体験は、複数の受験者・合格者の声をもとに構成した架空のケースです。

一級建築士の受験資格と実務経験の関係は、改正前に書かれた解説がいまも検索結果に残っているため誤解されやすい。読み終えるころには、自分がいつ一級建築士試験を受けられ、いつ免許を登録できるのかを年単位で逆算できるはずだ。学歴別の年数、実務として数えられる業務の範囲、登録手続きの注意点まで、木村さんの受験記録とあわせて順に確認していこう。

一級建築士の受験資格は2020年の改正で「実務経験なし」でも満たせるようになった

architect reviewing blueprints in office

改正前の制度では、大学で指定科目を修めて卒業した人でも、2年以上の実務経験を積まなければ一級建築士の受験資格を得られなかった。短大や高専の卒業者はさらに長い3〜4年の実務経験が必要で、卒業から受験までに数年の空白が生まれていた。この「受験前の実務経験」という壁が、若い世代の受験を遅らせる原因になっていたのだ。

国土交通省は、一級建築士試験の受験者数が急減し、受験者の高齢化も進んでいることを背景に建築士法を改正した。改正法は2018年12月に公布され、2020年3月1日に施行されている。令和2年(2020年)の試験からは、実務経験は受験資格ではなく免許登録の要件として扱われ、試験の前後どちらで積んでも通算できるようになった。制度変更の概要は国土交通省「建築士法の改正について」で公開されている。

改正前と改正後で何が変わったのか

変わったのは「実務経験をいつ求めるか」というタイミングであり、必要な年数そのものが大きく減ったわけではない。大学卒業者なら、改正前も改正後も合計2年以上の実務経験が必要になる点は同じだ。違いは、その2年を受験前に積むか、合格後も含めて登録までに積めばよいかにある。

木村さんの場合、入社2年目の春に「実務がまだ1年しかないから受けられない」と判断し、その年の一級建築士試験を見送った。実際には大学で指定科目を修めていたため、卒業した年から受験資格を持つ立場だった。「最新の受験案内を最初に読んでいれば1年早く挑戦できた」と、本人はのちに振り返っている。

現行制度で一級建築士の受験資格を満たす人の区分

現行の受験資格は、大きく分けて「指定科目を修めて学校を卒業した人」と「ほかの建築系資格を持つ人」の2系統になる。国土交通大臣が同等以上と認める人もいるが、該当者は外国の大学で建築を学んだ人などに限られる。受験資格の区分の正式な内容は、試験を実施する公益財団法人 建築技術教育普及センターの一級建築士試験ページで毎年公表される受験案内で確認できる。

  • 大学(短期大学を除く)で国土交通大臣が指定する建築の科目を修めて卒業した人
  • 3年制または2年制の短期大学で指定科目を修めて卒業した人
  • 高等専門学校で指定科目を修めて卒業した人
  • 二級建築士の免許を持つ人
  • 建築設備士の資格を持つ人
  • 国土交通大臣が上記と同等以上の知識・技能を有すると認める人

指定科目を修めて卒業した人は卒業年から受験資格を得る

学校ルートで受験するには、建築設計製図・建築計画・建築構造・建築法規などの指定科目を、所定の単位数以上修めて卒業している必要がある。建築学科を卒業していても、選択科目の取り方によっては必要単位に届かないことがある。自分が対象かどうか不安なら、卒業した学校の教務課で指定科目の修得単位数を確認するのが早い。

指定科目の単位数は、受験資格の有無だけでなく、免許登録時に必要な実務経験の年数にも影響する。同じ大学卒業者でも、修めた単位が多いほど登録までの年数が短くなる仕組みだ。在学中の学生なら、指定科目を多めに履修しておくことが将来の登録時期を早める近道になる。

二級建築士・建築設備士の資格を持つ人にも受験資格がある

建築系の学校を出ていない人は、二級建築士の免許を取得してから一級建築士試験に進むルートが現実的だ。改正前は「二級建築士として4年以上の実務経験」が一級の受験資格だったが、現在は二級の免許を持っていれば実務年数にかかわらず受験できる。二級建築士自体の受験資格は二級建築士の受験資格を解説した記事で詳しく整理している。

建築設備士の資格保有者も同じく受験資格を持つ。設備設計の経験を積んだ技術者が、一級建築士の資格を取って設計業務全体に関われるようになるルートとして利用されている。いずれの場合も、免許登録の段階では二級建築士または建築設備士としての実務経験が4年以上必要になる点は押さえておきたい。

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免許登録に必要な実務経験の年数を学歴別に整理する

construction site supervisor with helmet

一級建築士試験に合格しても、所定の実務経験を満たすまでは免許を登録できず、一級建築士を名乗ることもできない。必要な年数は最終学歴と指定科目の単位数で決まり、主な区分は次の表のとおりだ。

区分 受験時に必要な実務経験 免許登録時に必要な実務経験
大学卒業(指定科目60単位以上) 不要 2年以上
3年制短大卒業(指定科目50単位以上) 不要 3年以上
2年制短大・高専卒業(指定科目40単位以上) 不要 4年以上
二級建築士 不要(免許の保有が条件) 二級建築士として4年以上
建築設備士 不要(資格の保有が条件) 建築設備士として4年以上

大学卒業者でも指定科目の単位が50単位なら3年以上、40単位なら4年以上というように、単位数が少ないほど必要な年数は延びる。表は代表的な組み合わせを示したもので、入学年度や学校の課程によって扱いが異なる場合がある。正確な年数は受験案内に付属する学歴区分の整理表で確かめてほしい。

実務経験の年数は、試験の前に積んだ期間と合格後に積んだ期間を通算して数える。卒業直後に受験して合格し、その後2年働いて登録する流れも、2年働いてから受験する流れも、登録できる時期に大きな差はない。違いが出るのは、勉強に集中しやすい学生時代や入社直後の時間を受験に使えるかどうかだ。

実務経験として認められる業務・認められにくい業務

2020年の改正では、実務経験のタイミングだけでなく、実務として数えられる業務の範囲も見直された。従来の中心だった建築物の設計・工事監理に加え、建築確認の審査や施工管理など、建築物に関わる幅広い業務が対象になっている。木村さんが担当していた戸建て住宅の施工管理も、この範囲に含まれていた。

実務経験の対象になる主な業務

  • 建築物の設計、工事監理に関する業務
  • 建築工事の施工管理、指導監督に関する業務
  • 建築確認・検査などの審査に関する業務
  • 建築物の調査、評価に関する業務
  • 建築行政に関する業務
  • 大学院で所定の科目(インターンシップ等)を修めた期間

大学院の在学期間は、建築の実務に関わる科目を所定の単位数以上修めた場合に限り、1年または2年を実務経験に算入できる。修士課程に進む予定の学生にとっては、登録までの期間を短くできる仕組みだ。対象科目は大学院ごとに異なるため、進学先のカリキュラムが算入の対象かどうかを入学前に確認しておきたい。

実務経験として認められにくいケース

建設会社や設計事務所に在籍していても、主な業務が営業・総務・経理である期間は、建築の実務経験としては扱われにくい。図面のトレースや資料作成だけを担う補助的な業務も、実務の中身によっては対象外と判断されることがある。登録時には業務内容を具体的に申告する必要があるため、「建築会社にいた期間」と「建築の実務に従事した期間」は分けて考えたほうが安全だ。

判断に迷う業務がある場合は、勤務先で一級建築士を登録した先輩に過去の申請内容を聞くのが参考になる。それでも不明な点は、登録の窓口である各都道府県の建築士会に事前に相談しておくと、申請後の差し戻しを防ぎやすい。

受験から免許登録までの流れ(大学卒業者のモデルケース)

young professional filling out application form

大学で指定科目を修めた人が卒業後すぐに一級建築士試験へ挑戦した場合、登録までの流れはおおむね次のようになる。学科の試験は例年7月、設計製図の試験は10月に行われ、最終合格の発表は12月だ。

  1. 大学を卒業し、指定科目の修得単位数から受験資格を確認する
  2. 4月ごろの受験申込期間にインターネットで申し込む
  3. 7月の学科の試験を受け、合格すれば10月の設計製図の試験へ進む
  4. 12月の合格発表で最終合格を確認する
  5. 試験前後を通算して所定の実務経験(大学卒業なら2年以上)を満たす
  6. 実務経歴書と勤務先の証明をそろえ、免許登録を申請する

学科の試験に合格した人は、その後の一定回数の試験で学科が免除され、設計製図の試験だけを受けられる。学科合格の年を含めて5回の試験のうち3回まで免除される仕組みで、製図に落ちてもすぐに学科からやり直しになるわけではない。試験日程や受験料は年度ごとに変わるため、申込前に公式の受験案内で確認しておこう。

木村さんが登録までにたどった4年間

木村さんは2021年に大学を卒業してハウスメーカーに入社し、施工管理の仕事に就いた。前述の思い込みで2022年の受験を見送り、初挑戦となった2023年の学科の試験は125点満点中98点で不合格だった。とくに法規の点数が伸びず、平日の帰宅後に毎日2時間の学習を続けても、法令集を引く速さが本番に追いつかなかったという。

翌2024年は、市販の過去問題集7年分を3周し、法令集のインデックスを自分用に作り直した。学科の試験は112点で突破し、設計製図の試験は通信の添削講座で20枚以上の課題を描いて合格をつかんだ。2年間の学習時間は合計で約1,100時間だった。合格発表の時点で実務経験は3年8か月に達していたため、翌月には登録を申請できた。

登録後、木村さんは社内公募で設計部門へ異動し、資格手当として月2万円が支給されるようになった。「受験資格の確認を後回しにしたせいで1年遅れた」というのが、本人がいちばん後悔している点だ。独学での学習計画は一級建築士の独学勉強法、合格率の推移は一級建築士の難易度と合格率の記事も参考にしてほしい。

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免許登録の実務経歴書で注意したいポイント

免許登録の申請では、学歴を証明する書類に加えて、実務の内容と期間を記した実務経歴書を提出する。経歴書には勤務先ごとに業務の種類や担当した建築物の概要を記入し、勤務先の代表者などから証明を受ける必要がある。証明者の押印や署名がそろわないと受理されないため、書類集めには余裕をもって取りかかりたい。

とくに注意したいのが、転職や退職をはさんだケースだ。前の勤務先の証明は、会社の廃業や担当者の異動で取りにくくなることがある。一級建築士試験に合格する前でも、在職中に担当物件や従事期間を記録しておけば、登録のときに経歴書を正確に書ける。

同じ期間に複数の勤務先で実務をしていた場合、期間を重ねて二重に数えることはできない。また、パートタイムなど勤務時間が短い期間の扱いは個別に確認が必要になる。申請先の建築士会が公開している記入例を見ながら、業務内容を「設計」「施工管理」など具体的な言葉で書くと審査がスムーズに進みやすい。

一級建築士の受験資格と実務経験に関するよくある質問

建築学科以外の大学を卒業していても一級建築士を受験できますか?

指定科目を修めずに卒業した場合、学校ルートでの受験資格は得られない。この場合は、二級建築士の免許を取得してから一級を受験するのが一般的なルートになる。二級建築士は建築実務7年以上で受験資格を得られるため、建築業界で働きながら段階的に目指す人も多い。

合格後に実務経験が足りないまま何年たっても登録できますか?

一級建築士試験の合格に有効期限は設けられていない。合格後に実務経験が規定の年数に届いた時点で、いつでも免許登録を申請できる。ただし登録の手続きや必要書類は改正されることがあるため、申請する年の最新情報を確認しておきたい。

二級建築士を持っていれば実務経験ゼロでも一級の受験資格がありますか?

受験はできる。二級建築士の免許を持っていることが受験資格になり、受験の時点で実務年数は問われない。ただし一級の免許を登録するには、二級建築士として4年以上の実務経験が必要になる。

施工管理の経験は一級建築士の実務経験になりますか?

2020年の改正以降、建築工事の施工管理や指導監督の業務は実務経験の対象に含まれている。ゼネコンやハウスメーカーで現場を担当している人も、従事期間を通算して登録要件を満たせる。担当した業務の内容は、実務経歴書に具体的に記載しよう。

まとめ

一級建築士の受験資格は、2020年の建築士法改正によって実務経験がなくても満たせるようになった。大学などで指定科目を修めて卒業した人や、二級建築士・建築設備士の資格を持つ人は、受験の時点で実務年数を問われない。実務経験は免許登録の要件として残り、大学卒業なら2年以上、短大・高専なら3〜4年以上、二級建築士なら4年以上が目安になる。

実務経験は試験の前後で通算でき、施工管理や建築確認の審査など対象となる業務も広がった。木村さんのように思い込みで受験を遅らせないよう、まずは最新の受験案内で自分の受験資格の区分と必要な実務経験を確認してほしい。資格の全体像は一級建築士とはどんな資格かを解説した記事にまとめている。

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